株式会社桃谷順天館

皮膚科学研究

皮膚科学研究

季節や年齢による肌パラメータや皮膚細菌叢の変化に関する研究

肌には様々な皮膚常在菌が存在しています。これらの細菌は皮膚細菌叢といわれ、人の皮膚と相互に作用しているといわれますが、その詳細は未だ明確ではありません。 そこで、新たな美容理論の構築を目指し、一丸ファルコス株式会社と、皮膚細菌叢と水分量・皮脂量・弾力などの皮膚パラメータとの関係性についての以下共同研究を実施しました。

その結果、皮膚細菌叢が季節や年齢によって変化することを明らかにしました。 また、加齢肌の改善の化粧品開発を目指し、皮膚パラメータから加齢した肌の特徴を持つ被験者を抽出し、それらの被験者の肌には特徴的な細菌が存在することを見出しました。

◆ 研究内容

当社では、冬(82名)、春(74名)、夏(79名)、秋(74名)の年4回にわたり皮膚パラメータの測定を実施。冬と夏の測定時には皮膚細菌叢も採取し皮膚パラメータと皮膚細菌叢との関係性、季節や年齢による変化を確認しました。

(1)皮膚パラメータの季節変化については、これまで知られているような季節変化や年齢による差が見られました。例えば、水分量は春夏にかけて高く、秋冬は低くなり、水分蒸散量は夏に低く、秋冬に高くなります。また、メラニン量は夏が高く、肌弾力は年齢と共に低くなります。

(2)皮膚細菌叢についてはこれまで同じ人、同じ採取箇所では経時的に大きな変化はなく安定しているとされていましたが、本研究では夏の方が多様な種類の細菌が存在することを表す、多様性指数シャノンインデックスが高く、必ずしも皮膚細菌叢は安定していないことが分かりました。

(3)冬の測定の際の皮膚パラメータと年齢の相関が高かった、肌弾力の指標をもとに肌年齢を算出し、実年齢より加齢した肌の特徴を持つ人(Agingグループ)、年齢相当の肌の特徴を持つ人(Normalグループ)、実年齢より若い肌の特徴を持つ人(Younger グループ)に分け(図1)、それぞれのグループの皮膚パラメータを比較したところ、被験者の年齢平均値は3グループで差がないにもかかわらず、肌の明るさ、赤み、シミ、ヘモグロビン値、水分蒸散量について、AgingグループとYoungerグループに有意に差がありました(図2)。

また、AgingグループとYoungerグループの皮膚細菌叢を比較すると、Agingグループでキサントモナス属とアシネトバクター属の細菌の存在比率が有意に多いことが分かりました(図3)。

AgingグループとYoungerグループの被験者の肌画像

図1 AgingグループとYoungerグループの被験者の肌画像

Agingグループ、Normalグループ、Youngerグループの皮膚パラメータ

図2 Agingグループ、Normalグループ、Youngerグループの皮膚パラメータ

Actual age 実年齢:3チームで年齢分布に差がないことを表している
Brightness 明るさ:younger群が高い
Redness 赤み :aging群が高い
Spots score しみ :younger群が少ない
Hemoglobin index ヘモグロビン:aging群が高い
TEWL 水分蒸散量:aging群が高い
AgingグループとYoungerグループで存在比率に差があった細菌

図3 AgingグループとYoungerグループで存在比率に差があった細菌

学会発表

2020年 The 31st IFSCC Congress 2020 YOKOHAMA 「A study of the relationship between face skin parameters and skin microbiome (顔の肌パラメータと皮膚細菌叢の関係性についての研究)」

肌のくすみについての研究

肌のくすみは、人の肌の美しさや調子を判断する指標のひとつとして知られています。くすみは化粧品用語としては一般的に広く使われ、「肌が暗く見える」、「肌が黄ばんで見える」、「肌にムラがあるように見える」、「肌が不健康に見える」、「肌に透明感を感じない」などの状態を指し示した表現ですが、医学的な定義はありません。
しかし、化粧品業界ではくすみの原因の研究は古くから行われており、メラニン量の増加や糖化、乾燥、古い角質の蓄積など様々な要因が知られています。これらはすべて皮膚科学的なメカニズムに基づいた研究になりますが、人が感じる見た目のくすみの判断に直接的に何が大きく寄与しているかは研究されていませんでした。そこで、私たちはくすみに何が大きく影響するのかを調査し、その原因を除去することによるくすみの改善の実感を検討しました。

生体分子メカニズムによるアプローチ

見た目のくすみスコアは年齢と共に悪化し、既に知られている研究結果のように明るさやメラニン量、角質の蓄積が関与していることが確認できました(Mann-Whitney U-test: p<0.01)。また、新たに、見た目のくすみスコアが高いほどKLK5(タンパク質)が低いということを発見しました(Mann-Whitney U-test:0.01<p<0.05)。このことはKLK5の活性量が低下し、ターンオーバーの遅延が生じることで古い角質細胞が剥離されず肌表面に残っているためくすみを感じると考えられます(図1)。
また、健常者にターンオーバー改善効果で知られているプロテアーゼ溶液を28日間使用させた結果、使用していない群に比較して使用した群で有意にKLK5の活性量が増加することがわかりました(図2)。さらに、ターンオーバー促進の指標である肌表面の角質細胞面積が減少、合わせてくすみに対する実感も87.5%改善することがわかりました(図3)。
この結果より、KLK5はくすみの実感に関与していることが示唆され、ターンオーバーとくすみの関係も再度関連を見出すことができました。
この研究結果はターンオーバー改善の製剤に活用してまいります。

図1

図1:肌のくすみスコアと肌パラメーターの関係

図2

図2:ターンオーバー改善製剤によるKLK5の活性(paired t-test **: p<0.01, *: 0.01<p<0.05 )

図3

図3:被験者のくすみ改善実感

学会発表

2016年 26th IFSCC A study of factors involved in the skin dullness

環境光を利用したレンズでの観察によるアプローチ

「肌を観察する」中でも、手段は多様にあります。日常空間の中で観察する、全顔撮影装置によって一定の照明条件の下観察する、マイクロスコープでキメまで観察するなど、複数の手段による観察結果から総合的に考察することで、現象の全体像をつかむことができます。
環境光を利用したレンズで見た時に、白くぷっくりとふくらんでいる肌(図1:赤枠)は、肉眼で見た時には「くすんでいる」と感じられることを明らかにしました。このことから、くすみは肌のターンオーバーの遅延による角質肥厚が主因であるとする通説がより強く支持されたものと考えられます。

環境光を利用したレンズでの観察研究

図1:くすんでいる肌とそうでない肌の様々な観察方法における見え方の違い

学会発表

2016年 第21回日本顔学会大会 くすみ肌に観察される形態特徴
※研究の一例を紹介しています。