株式会社桃谷順天館

感性工学研究

感性工学研究

毛穴の黒ずみ解消における効果実感に関する研究

毛穴について訴求した製品の効果試験で、被験者自身が「毛穴の黒ずみの改善」を実感した場合においても、専門評価者による目視評価で効果が捉えられないことが多く、黒ずみへの効果実感は視覚的以外の要素も関与しているのではないかと考え、以下の研究を実施いたしました。 その結果、毛穴の黒ずみは視覚的効果が起因している悩みだと考えられていましたが、触感的効果も大きく作用しており、肌の手触りが改善することでも効果実感を得ていることが分かりました。

研究内容

■ Step01:イメージ調査

毛穴の黒ずみに悩む方が「毛穴の黒ずみが改善された」と効果を感じるのは、 どの様な状態のことをイメージしているかヒアリングし、潜在的に求めている効果感を調査しました。

女性100名(20代26名,30代36名,40代26名,50代12名)を対象にWEBアンケート調査を実施。質問項目は「毛穴について悩んでいるか?(回答:悩んでいる,やや悩んでいる,悩んでいない)」、「どのような毛穴について悩んでいるか?(複数回答可能:黒ずみ・毛穴の開き・たるみ・色素沈着・不明・その他)」としました。 「毛穴について悩んでいる」又は「やや悩んでいる」と回答かつ、毛穴の悩みを「黒ずみ」と回答、加えてインタビュー可能な方を16名選定してインタビュー調査を実施。主に「毛穴の黒ずみに効果を感じる状態」に関してヒアリングを行いました。

結果及び考察

毛穴の黒ずみに悩んでいる方16名に「毛穴に効果を感じると思う状態」に関してインタビューを行ったところ、「黒ずみが目立たなくなる」「ツルツルとした手触り」が最も多い回答を得ました。※図1 基本的に、毛穴の黒ずみは鏡を見た時に目立って気になり始めるという視覚的な悩みであることを踏まえると、毛穴の黒ずみ或いは毛穴が目立たなくなる視覚的効果が効果実感と結びつくことは容易に推測出来ます。一方、「ツルツル」という手触りに関しては毛穴の黒ずみという視覚的な悩みとの関係性は直接的ではなく、毛穴に悩む方が潜在的に毛穴の黒ずみとざらつきが結び付いたイメージを持つ可能性が考えられます。 さらに、視覚的効果と触感的効果の2つに分類したところ、視覚的効果のみ回答した方は16名中8名、視覚的効果と触感的効果の両方を回答した方は16名中8名でした。視覚的効果に加えて触感的効果も求めている方が、視覚的効果のみを求めている方と同程度おり、触感的効果も毛穴の黒ずみの効果実感に寄与することが示唆されました。

毛穴の黒ずみに効果を感じる状態

図1.毛穴の黒ずみに効果を感じる状態

■ Step02: 毛穴の黒ずみ目立ちと相関のある要素の分析

毛穴の黒ずみに悩む方がStep1で調査した効果感をなぜ求めるのか調べるため、黒ずみが目立つ方の皮膚特性を分析しました。

男性 3名(20代2名、30代1名)と女性 13名(20代10名、30代3名)を被験者として検討を行いました。 対象部位は毛穴の黒ずみが最も気になる部位である鼻とし、肌物性を測定。 既定の洗顔料で洗顔を行ったあと、温度と湿度を一定にした環境で肌状態を安定させたのち測定を実施することを条件とし、①皮脂量、②毛穴の面積、③角層の重層度、④光の反射率の4つを測定項目としました。

また、専門評価者4名により対象部位のみ表示された画像を観察し、毛穴の黒ずみの目立ち度を5段階で目視評価した後、肌状態の各測定項目と黒ずみの目立ち度の相関関係について調べました。

毛穴の黒ずみへの効果を実感する可能性がある要素を見出すために、毛穴の黒ずみが目立つ人の皮膚特性を分析しました。
毛穴の黒ずみ目立ち度と4つの測定項目数値の関係を調べた結果を表1.に示しました。毛穴の目立ち度と有意な相関が認められた肌測定の項目は、「毛穴の面積」「「角層重層度」「光の反射」の3項目でした。
透明感がありくすんでいない肌は、光の反射率がくすんだ肌に比べ高いといわれています。
従って、毛穴の黒ずみが目立つ方の鼻の肌状態は、角層が重層してくすんでいることが推測されます。 また、毛穴の黒ずみで悩む方は目視的に毛穴の黒ずみが気になるだけでなく、日々ざらつきやごわつきも感じているため、「Step1の結果及び考察」に示したように視覚的効果だけでなく触感評価も毛穴の黒ずみへの効果実感の要素として挙げたのではないかと考えます。
※高橋秀企, 高田定樹, フレグランスジャーナル,2006, 267-273.より

項目 黒ずみ目立ち度との相関係数
重層度 0.712
光の反射率 -0.554
毛穴の面積 0.377
皮脂量 -0.009
表1.黒ずみ目立ち度と肌物性の相関係数
「1」「-1」に数値が近付くほど相関関係の強さを表す

■ Step03:仮説検証

手触りの効果実感が高い製品を使用した時の、毛穴の黒ずみに対する効果実感を確認

毛穴の黒ずみに悩む女性5名を対象に、口コミサイトにおいて手触りの効果実感に関する記載が多い市販品の洗顔料Aを、使用してもらいました。
試験期間中、被験者自身に毎日毛穴の黒ずみ悩み度の評価と、感じた効果を自由記入方式で回答してもらいました。また、使用前後で専門評価者による黒ずみの目立ち度の評価及び毛穴面積の測定を行いました。

結果及び考察

2週間後、被験者自身の毛穴の黒ずみの悩み度は、使用前より減少し効果を感じていることが分かりました※図2 更に、自由記述式アンケートの結果より、毛穴の黒ずみへの効果を感じた方はいずれも使用後ツルツルとした手触りを実感していることが分かりました。 一方、同様に2週間後の専門評価者による毛穴の黒ずみの目立ち度評価からは、毛穴の黒ずみが解消された方はおらず、使用前と同様か、使用前と比較し目立つようになっているという結果となりました。※図3 また、毛穴の面積も、使用前より増加していることが分かりました。※図4
本試験結果より、毛穴の黒ずみへの効果実感において、視覚的効果より触感評価が強く影響を与えることが示唆されました。

図2.洗顔料A連用試験における黒ずみの悩み度
(被験者の実感)

図3.洗顔料A連用試験における黒ずみの目立ち度
(専門評価者による評価)

図4.洗顔料A連用試験における毛穴の面積
(専門評価者による評価)

結論

本研究により、毛穴の黒ずみに悩む方が視覚的効果だけではなく触感的効果も求めていること、また、それは毛穴の黒ずみが目立つ方の肌は重層度が高くくすんでいる状態であり、日々肌のくすみやごわつきを感じていることが起因している可能性があることが分かりました。

また、触感的効果が感じられる洗顔料Aの連用試験により、視覚的効果に比べ触感的効果がより毛穴の黒ずみへの効果実感において強く作用することが示唆されました。
今後は、触感的要素が毛穴の黒ずみという視覚的な悩みに対して効果を与える感性メカニズムを解明してゆきます。

学会発表

2022年 第24回日本感性工学会大会 毛穴の黒ずみ解消における効果実感

ファンデーション塗布色の知覚メカニズムを明らかにする研究

物の色の見え方には、「その物がどのような色の光に照らされているのか」と、「その物がどのような色の光を反射するのか」に加え「脳がその物の色をどのように解釈しているのか」が大きく関わっています。同じ色にも関わらず脳が全く異なる色と解釈します(図1)。 そのことから、ファンデーションなどメイクアップ化粧品の色の見え方を正しく理解するためには、脳内の知覚メカニズムを研究することが必要になります。

錯視図

(a)の錯視図では同じ色の領域が陰影のバイアスを受けることによって異なる色に知覚されます(出典:Adelson, E. H. Lightness Perception and Lightness Illusions. New Cognitive Neurosciences,339-351(2000))。(b)は折り曲げた板を3DCGにより描画した画像で、(c), (d)はその一部(上向きの面)の色を後から変えています。(c)の図だけを見た時に上向きの面だけ色が違うとは感じにくい(均一な色の板が折れ曲がっているだけに見える)一方で、(d)のように陰影とは違う方向に色の変化が起こると上向きの面だけ色が違っていると明確にわかります。このことから、陰影度合いが異なる領域間では、色が部分的に異なっていてもそれが陰影方向と同方向であれば知覚されにくい(色が違うという違和感が生じにくい)ことがわかります。

図1:錯視図

ファンデーションは塗布している部分(顔)と塗布していない部分(首など)の色が自然になじむことが仕上がりの美しさに大きく影響しますが、日常的なシチュエーションにおいて、顔から首にかけては常に陰影があります。脳は陰影があると色の関係性を正しく理解することはできません。その一方で、色の方向が異なると明確に違う色であると理解することができます(図2)。
私たちは、心理実験を基に、ファンデーションの塗布色は色方向がずれると違和感が生じ、逆に色方向を合わせれば自然になじませたまま1トーン明るくすることもできることを明らかにし、この色方向の一致性を画像から算出する技術を開発しました。この研究成果は、当社のベースメイク開発における基礎理論の一つとして活用されています。

色方向の一致制についてのイメージ図

(a)は首の色と合っている色のファンデーションを塗布した時の写真です。(b)は色方向の不一致により白く浮いた印象になっています。そこで(c)のように明るくしながらも色方向を合わせることによって、違和感なく 1 トーン明るい色に補正する事ができています。一方で(d)のように色味が別の方向にずれてしまえば、これもまた違和感のある仕上がりとなります。

学会発表

2014年 AIC Midterm Meeting The Relationships between Colors of Neck, Cheek, and Shaded Face Line Affects Beauty of Made-up Face
2015年 日本色彩学会コスメティクスと肌・顔研究会 第3回研究発表会 好ましいファンデーション塗布色の新規評価手法の確立
2015年 第17回日本感性工学会大会 ベースメイクとヘアケアにおける感覚効果の評価

論文発表

2016年 感性工学 Vol.14 No.1 ベースメイクとヘアケアにおける感覚評価
2018年 ヒトの感性に訴える製品開発とその評価技術,技術情報協会,p.530-538 好ましいファンデーション塗布色について
2019年 CosmeticStage 13(3),p.22-25 ファンデーションの色に関する「好ましさ」の感性評価

毛髪のハリコシ感を生み出す物理特性を探る研究

近年、毛髪ケアや頭皮ケアといった頭髪化粧品の市場は拡大しています。市場でシェアを拡大しているヘアケアのエイジング製品や育毛製品の効果実感としてよく用いられるワードに「ハリ・コシ」という表現がありますが、一般的に「ハリ・コシ」の測定方法としてはマゲ弾性係数や毛髪強度を計測することが知られています。
しかし、ハリ・コシ感という感覚に影響を与える毛髪特性を追求した研究はあまり見られません。そこで、ハリ・コシ感という感覚を特徴付ける毛髪の物理特性を明確にすることを目的とし検討を行いました。

人の感じるハリ・コシ感と毛髪切断強度、毛髪の摩擦係数、毛髪断面積、断面積の楕円率、毛束の曲げ角度の関係性を研究した結果が毛髪の断面積が関係(R=0.807)していることがわかりました。(Spiaman 順位相関係数p<0.01)
また、毛束に様々な処理をして毛髪断面積の変化とハリ・コシ感の関係を検討した結果、毛髪断面積が増加するほど、ハリコシ感も増加することがわかり、毛髪の太さが人の感じるハリ・コシ感に大きな影響を与えていることがわかりました。

⽑髪の断⾯積変化⽐とハリ・コシ感の相関関係

学会発表

2012年 第2回日本感性工学会関西支部大会 髪のハリ・コシ感に関係する物理特性の研究
2015年 第17回日本感性工学会大会 ベースメイクとヘアケアにおける感覚効果の評価

論文発表

2016年 感性工学 Vol.14 No.1 ベースメイクとヘアケアにおける感覚評価
※研究の一例を紹介しています