現代では業種間のボーダレス化が進んでおり、様々な新しいものやサービスが生まれています。化粧品はこうでなくてはならない、という固定概念でなく、「肌を美しく健康にする」という目的に立ち返り、研究開発を進める必要があります。
生活環境の変化、過度のきれい好き文化、衣料系テクノロジーの進化などから、肌を取り巻く環境も変化し、アトピー性皮膚炎の増加やボディの乾燥を気にする声が高まっています。特にシニアやベビーに多いとされる肌が弱い層では深刻化する声もあります。
この課題を解決するため、衣料品への化粧品効果の付与について研究を進めています。
クレンジングオイルの処方設計では、‟クレンジング力”も大切ですが、‟すすぎやすさ”も非常に重要です。これは、洗い流しの際の不快感の低下、およびオイル成分の肌への残留を防ぐために設計され、水と混ざる際に‟微細な粒子(マイクロエマルション)”になることが求められます。本技術は、オイル成分を弱い撹拌で微細なエマルションにでき、その安定化や表面積の増加が期待できます。
オーミケンシ株式会社様との共同研究により、繊維の製造工程において、マイクロエマルション法を用いて化粧品成分を高濃度で繊維中に配合することに成功しました。配合された成分は洗濯においても一定の耐性を保ち、着用することで皮膚の水分量を向上させるなど、化粧品としての効果効能を有することがわかりました。
この技術を活用し、繊維製品に化粧品機能を付加した商品開発を進めています。
特願2015-139436 | 抗菌レーヨン繊維及びこれを用いた繊維製品 |
「年齢を重ねても肌の美しい女性は他の女性と何が違うのか?」。この考えから研究をスタートさせました。 40~50代の女性にご協力いただき、お肌のパラメーター(水分量や弾力等)、食生活や生活環境、細菌叢(皮膚、腸、口腔)等を解析しました。その結果、年齢を重ねてもお肌の美しい女性には、特定の腸内細菌‘美肌菌’が多く存在したことが分かりました。この‘美肌菌’に着目し、腸内細菌叢をコントロールし、美肌に導く“フローラコントローラISR”を開発しました。
40~59歳までの女性(1年以内に美容医療を受けていない・1カ月以内に抗生物質を摂取していない方)にご協力いただき、肌パラメーター(水分量や肌弾力等の19項目)、身体活動状況や食生活、運動習慣、そして皮膚、腸内、口腔の細菌叢についての調査を実施。 上記肌パラメーターから弊社独自の評価方法によって美肌スコアを算出し、そのスコア値により、美肌群、一般群を定義し、各項目との比較解析を実施しました。(p<0.05水準で有意差とした) 解析結果より、美肌群、一般群では、年齢に関する比較差は無いが、美肌群の方が美肌スコアが高く、特定の腸内細菌‘美肌菌’の存在割合が高いことが分かりました。
記研究結果より発見した、美肌群に有意に存在割合が多い腸内細菌"美肌菌"を増加させ、美肌スコアを上昇させるべく、その"美肌菌"を増加させる処方を施したサプリメントを開発し、実証実験を実施しました。 40~59歳までの女性(1年以内に美容医療を受けていない・1カ月以内に抗生物質を摂取していない方)12名を被験者として、上記開発したサプリメントを服用いただき、(1))摂取前、(2)1カ月間の摂取後、(3)摂取をやめた1カ月後の3点で、肌パラメーター及び腸内細菌叢を比較しました。
サプリメント摂取前、及び、摂取1カ月後の腸内細菌叢の比較試験から、美肌群に有意に存在割合が多い腸内細菌"美肌菌"が、約25%増加(p=0.027)(図2)していることが分かりました。 肌の水分量が約30%増加し(p=0.043)(図3)、肌の弾力も約8%(p=0.0032)(図4)増加しました。 よって、このサプリメントが特定の腸内細菌‘美肌菌’を増加させ、水分量や肌弾力のスコアを上げ、美肌に導くプレバイオティクスサプリとして効果があることを確認しました。 弊社では、この技術を、飲むフローラコントローラISRとし、2019年9月に特許を出願しました。
‟フローラ”といえば腸内フローラに代表されるような‟細菌叢”を言い、健康や美容面で大きな注目をあびています。実は肌にもフローラはあり、200種以上の皮膚常在菌が存在します。これをスキンフローラといいます。
代表的なスキンフローラとして、表皮ブドウ球菌(S.epidemidis)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、アクネ菌(C.acnes)が知られています。中でも黄色ブドウ球菌は毒素を作り出し、炎症を誘起するなどの報告があり、一方で表皮ブドウ球菌は肌に潤いを与え、また皮膚を弱酸性に保ち雑菌の繁殖を抑制する等肌に良い影響を与える働きがあります。この様に肌の上にいる菌は‟単なる雑菌”ではなく、肌のコンディションを保つ上で重要な役割を持つことがわかってきました。
従来、菌は一様に殺菌することが推奨されてきましたが、当社では共生することが重要であると考え、スキンフローラをコントロールする技術の開発を進めてまいりました。
スキンフローラをコントロールする成分として、黄色ブドウ球菌(S.aureus)と表皮ブドウ球菌(S.epidemidis)に注目し、最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration, MIC)測定の差による選択的な活性評価を進めました(図1)。数年来の研究から、ある成分をある条件下で配合することで、表皮ブドウ球菌は抑制せず(>1,000 µg/mL)、黄色ブドウ球菌は優位に抑制する(<31.3 µg/mL) 事がわかり、‟フローラコントローラFC161”が完成しました。
フローラコントローラFC161は単純に化粧品へ配合しても効果を発揮せず、肌の表面にとどめる処方系の検討が必要であることがわかってきました。この課題を解決するため、フローラコントローラFC161の配向状態を最適化させ、品質と効果を合わせた処方検討をすすめました。また、人の肌上のスキンフローラを再現する評価系も開発し、複数の菌を共培養※し、その存在比を評価する技術を開発しました (図2)。これによって、フローラコントローラFC161を配合した化粧品では、未配合群と比べ、表皮ブドウ球菌の存在比率を優位に増加できることが証明されました。本研究は地方独立行政法人大阪産業技術研究所の永尾寿浩博士のご指導、ご協力のもと行いました。
※共培養とは、NB寒天プレートに表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌を播種後、化粧品を塗布し共培養した手法
2015年 | The 11th International Symposium on Biocatalysis and Agricultural Biotechnology | Selective Antibacterial Activity of Palmitoleic Acid Useful for Possible Prevention of Atopic Dermatitis. |
ローズマリーエキスを配合した化粧水に角層剥離に関わる酵素カリクレイン(KLK)の活性を高めつつ、表皮角化細胞の増殖を促すことで表皮細胞のバランスを崩すことなく古い角層を緩やかに減少させ、肌の厚み感やくすみ感を低下させる可能性があることを明らかに致しました。今後、本成果をもとに当社の製品開発に応用していきます。また、本研究成果に関しては2019年9月30日よりイタリアミラノで開催された国際化粧品技術者連盟(以下、IFSCC)の世界大会(The 25th IFSCC Conference, Milan, 2019)にてポスター発表致しました。
これまでに当社は、年齢を重ねた時に増加しやすい肌のくすみに角層剥離酵素カリクレイン(KLK)-5の活性低下が関係すること、そして、その活性を高めることで肌くすみが軽減することを明らかにし、IFSCC Congressオーランド大会(2016)において発表してきました。
これに関連する研究を継続して行った結果、今回新たに、ローズマリーエキス配合化粧水にヒト角層におけるKLK-7活性を高めてヒトの古い重層した角層、なかなか剥がれず大きくなった角層を緩やかに減少させ、ヒトが感じる肌のくすみ感や厚み感を軽減させる可能性があることを明らかに致しました。また、肌くすみ感や厚み感の変化に関しては、女性の方がより感じてる可能性があることも確認することができました。
従来、ローズマリーエキスに関しては、抗炎症や抗菌作用をはじめとした各種作用があることが知られておりましたが、今回、上記のような新たな作用を見出しました。 本研究では、ローズマリーエキスによる表皮角化細胞の増殖作用も確認できたことから、ローズマリーエキス配合化粧水は角層の剥離だけでなく表皮細胞の供給もできるエキスと考えられ、そのため表皮ターンオーバーを整えつつ肌のくすみ感、厚み感も軽減させることが期待できると考えられます。今後、この成果を当社の製品開発に応用していきます。
2019年 | Improvement of epidermal turnover focused on exfoliation enzymes by botanical extract | The 25th IFSCC Conference, Milan, 2019 |
ルースパウダーやプレストパウダーなどの仕上げ用パウダーは処方の大部分をパウダーが占めています。
パウダーには水分や油分を吸着する性質があるため、仕上げ用パウダーを使うことで余分な脂や皮脂を吸着しテカリを抑えたり、化粧もちを良くすることが出来ます。
しかし、水分や油分を吸着する性質があるが故に肌が乾燥したり、朝のメイクが夕方になるとパサパサになることがあります。
そこでメイクしながらもスキンケアできる原料開発に取り組み、時間が経過しても肌が乾燥しにくいうるおいパウダーを開発しました(図1)。
スポンジのように細かな穴が開いたパウダーにうるおい成分を染み込ませることで、通常では配合できない量のうるおい成分を商品中に入れる事が出来ます。さらに肌になじませるうちにパウダーがほぐれ、内部に染み込んだうるおい成分もしっかり肌に届けることが出来ます(図2)。
私たちは肌の水分量を継続的に測定し、ルースパウダーにおいてこの素材の効果が最大限に発揮される配合量を研究。メイクしながらスキンケア効果を得ることが可能なアイテムを商品化しています。
紫外線を浴びると、お肌ではメラノサイトがメラニンという色素を産生します。メラニンは細胞を紫外線から守る働きをしますが、過剰なメラニンはシミやくすみの原因になります。
私たちは、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(旧 独立行政法人医薬基盤研究所。以下「医薬健栄研」という。)と共同でメラニン産生を抑制する植物エキスのスクリーニングを行いました。医薬健栄研には、薬用植物の栽培・育種に関する技術、化学的・生物学的評価に関する研究開発を行う薬用植物資源研究センターを保有し、国内外の様々な植物資源が保管されています。このリソースを活用し、200種類以上の植物エキスの中からスクリーニングを行い、これまで報告のないタカクマムラサキという植物に強いメラニン産生抑制作用があることを見出しました。このエキスにはメラニン産生に関わる酵素チロシナーゼの遺伝子の発現を抑制する効果があることが分かりました。
2016年 | Journal of Natural Medicines 2016,70:28-35 | Callicarpa longissima extract,carnosolrich,potently inhibits melanogenesis in B16F10 melanoma cells |
また、医薬健栄研との共同研究では、アマクサシダにメラニン産生抑制効果があることを見出しました。その効果成分は、ent-11α-Hydroxy-15-oxo-kaur-16-en-19-oic Acid (11αOH-KA) であることを特定し、B16F10細胞(図1)や三次元皮膚モデル(図2)でメラニンの産生を抑制することを確認しました。そのメカニズムを検討すると、メラニン産生にかかわる酵素チロシナーゼ遺伝子の発現を抑制していることが分かりました(図3)。
私たちはアマクサシダを化粧品に配合するため、化粧品原料化を検討しています。その際、アマクサシダは希少な植物であり、資源確保の観点から自社で栽培を始めています。
2015年 | 日本生薬学会第62回年会 | アマクサシダエキスのメラニン産⽣抑制効果 |
2017年 | 第48回中部化学関係学協会支部連合秋季大会 | アマクサシダのent-Kauren 化合物のメラニン産生抑制効果 |
特許5946510 | メラニン生成抑制剤、化粧料、及びメラニン生成抑制剤の製造方法 |
2017年 | Skin pharmacology and physiology 2017;30:205-215 | The Importance of 11α-OH, 15-oxo, and 16-en Moieties of 11α-Hydroxy-15-oxo-kaur-16-en-19-oic Acid in Its Inhibitory Activity on Melanogenesis |
※研究の一例を紹介しています